加速する文武両道社会。

今夏、都内有数の進学校である「駒場東邦中学校」のサッカー部が全国大会でベスト4に進出したニュースを目にしました。少し前、2023年には慶應高校の野球部が107年ぶりに甲子園を制覇したことも話題になりましたが、今後も「進学校×スポ―ツで快挙」というトピックは増えていくのではないか?と予想しています。

最も大きな根拠として個人的に考えているのは、「IT革命による情報の民主化」の恩恵です。このフレーズ自体は2000年頃から聞かれたものであって、既に陳腐化している感すらありますが、打ち出されたコンセプトが各現場に浸透して実を結ぶには20年ほど要する、というのは定説です。特にYouTubeをはじめとして、動画を通じた情報の取得が容易になったことが、こうした傾向を大きく後押しする要因になっていると見立てています。加えて、スケジュールや体調を記録・管理するアプリケーションが充実してきたことも前向きに作用していると考えられます。

過去、「スポーツで成果を上げるためには、秘伝のメニューを理不尽な量でこなさなければならない」という神話めいたものが(特に日本においては)存在したようで、それが伝統校や強豪校と呼ばれる学校群とそれらの指導者にとっての既得権になっていた印象が拭えませんでしたが、技術革新の結果、徐々に変化が生じているタイミングが今なのだろうと思います。

言うまでもなく、全ての人間に唯一、平等に与えられているのが1日24時間という制約であり権利です。そして少なくとも中学生~大学生くらいの”受験エリート”には、このうち何時間をどんなことに充てれば結果に結びつきやすいか?を提示されると、それを再現性高く遂行する能力が備わっています。ゆえに、これまで秘匿(?)されていた情報やノウハウが白日の下に晒されて、誰でも自由にアクセスできるようになってしまえば、彼らが躍進するのは当然の帰結と言えます。

そして、こうした人材が豊富に育っていった近い将来、プロ~セミプロのアスリート×○○(起業家、経営者、外資系金融機関や一流上場企業勤務)といった層が存在感をより放っていく世の中がイメージできます。かねてより商社などが体育会系出身の人材を好んで採用したり、資本金1億円を超える大企業がスポーツチームを運営したりといったケースは多くありましたが、より裾野が広がり、より深く浸透していく未来像です。特に、プロアスリートの拘束時間が実は短い点を考慮に入れると、先に挙げた各種の効率化と相まって、こうしたキャリア形成は十分に可能であると考えることができます。

ところで最後に、こうした流れが加速した際に割を食うのは誰か?を少しだけ考察します。結論それは、運動能力に頼って学歴を得てきた層で、社会として彼らに対する救済措置、セーフティネットを用意しておかないと、“脳筋ニート”を量産する事態を招きかねません。実は住まいの近くに日本で有数の体育大学を有していることもあって、スポーツ推薦一筋で頑張ってきた学生と触れる機会も少なくありませんが、彼らの中には(飲食店のバイトで)注文を1度に1つ以上覚えられなかったり、そもそも会話によるコミュニケーションの成立が困難だったりする者が少なからず存在します。

「かしこい奴」が跋扈する世の中というのは、これまではコーチによる(秘伝の)指示に従って愚直に競技へ打ち込んできた彼らのような存在を淘汰する世の中でもあります。個人的には、持てる者がどんどん能力を開花させていける環境を肯定する立場ですが、社会としての最適解が何か?は常に念頭においた上で、その一隅であっても貢献できる存在であることを忘れずにいたいとも考えています。

参考:

「出ている選手はみんな東大を目指せるレベル」受験難関校・駒場東邦中が全国ベスト4の快挙

金田伸夫のバスケ雑感