父を学び、父になる。

宮本輝氏の『流転の海』計9巻を読了しました。

第1巻を読み始めたのが2023年2月頃でしたので、計4,561ページを踏破するのに費やした時間は丁度2年くらいということになります。

(長過ぎて語る気力が湧かないので)詳細は割愛しますが、本書は父・母・子が歩んだ約20年間を綴った人生譚です。

舞台は1940年代後半〜1960年代の日本(主に大阪や富山)で、「戦争」が身近にあった時代の人々が抱いていたであろう感覚を否が応でも追体験させられる作品でした。

何より、主人公である松坂熊吾に関する描写や彼の独白を通じて、父親とは(家族にとって)何なのか?、光と陰の両面を学ぶ教科書となりました。

正確に言うと10歳〜20歳くらいの期間、実父とは年に数回、それぞれ数時間くらい共に過ごすことがありましたが、同居したこともなければ旅行にすら行ったことがないという自分にとって、父性のある日常を感じ取る読書の旅でした。

今回、なんとか読了を目指して、行きつけの居酒屋に設られたカウンター席で気が向いたら1回1時間くらい読み進めるという形を取ったのですが、間違いなく自身の深いところに刻まれる作品になったと思います。

とにかく長く、万人に薦め難い感は否めませんが、文字列に込められた人間の業と一縷の希望に併走する気概がある読み手に出会った際には、第1巻くらい贈呈してしまうかもしれません。

参考:「作家・宮本輝(3)不可解だった『父の最期』」