かれこれ10年以上「塾」という商売に携わっていますが、つくづく規模の拡大には不向きな業態だと感じます。実際、日本には上場している企業が約4,300社ありますが、そのうち学習塾などを主な生業にしている会社は20社くらいしかなかったはずです。
車や冷蔵庫といった製品、あるいはニンジンやカップ麺といった商品を売るのと違って、塾は体験を売るわけですが、受け手が存在する以上、同質のサービスを提供したとしても結果や顧客側の受け止め方は異なってきます。もちろん、自動車の買い手が極端に運転の下手くそな人であったり、食品を手に取った人が絶望的に料理下手であったりする可能性は否定できません。しかし、それらの場合、リコールに至る不具合や異物混入といった事故が無い限り、責任は消費者に帰属するというのが「常識」だと思われます。
翻って「塾」の場合、提供する商品(敢えて商品と書きます)が人間である以上、どうしても品質にバラつきが生じますし、いわゆる”合う/合わない”の問題も生じます。「顧客の悩みを解決する」業態という点では、パーソナルトレーニングジムなども似通った難しさを抱えていることが想像できますが、その中でも塾が特殊なのは、費用を支払う主体=親、サービス(授業など)を享受する主体=子ども、という仕組みになっている点です。そして多くの場合、前者は「(子どもに)頑張ってほしい」と願っているのに対して、後者は「なるべく楽をしたい。できれば成績が上がった方がいいけれど…」というモチベーションを抱えているのが常です。ゆえに、塾事業を提供する側には「親と子の仲介役・調整役を担い、期待値を調整する」という役割も課されることとなります。こうして考えてみると、仕事としては割に合わないと感じる人が殆どでしょうし、ビジネスとして再現性を担保するのは非常に難しいことが分かります。
また、学習塾やパーソナルトレーニング、そして英会話教室などを含めて広く「成長支援産業」であると定義した場合、顧客にとって理想的な状態=当該サービスなしに特定分野でのパフォーマンスを維持・向上できる状態、となることも悩ましい点です。要は、サービスを享受すると決めた段階で抱えていた悩みや問題を自身で解決できるくらい力を付けて、気持ちよく巣立っていく…という理想シナリオが存在するわけです。他方で、サービス提供者側にはLTV(Life Time Value、顧客生涯価値)を最大化するインセンティブが働きますから、そもそも構造的に矛盾を抱えた業態であることが分かります。加えて、適切な支援を受けて正しく賢く自助努力できる顧客は相対的に民度が高く、そうでない顧客が残りがちな構図であるため、長い目で見るとクレームの増加 or サービス提供している空間における質の低下、という現象に帰着します。
この辺りを踏まえると、「塾」を事業として大規模かつ長期に渡って成り立たせるのに必要な人物が備えるべき資質は、夢想家・宗教家・サイコパスのそれと似通ってくるのが分かってきます。そうでない場合には、年間に受け入れられる人数と顧客の属性を明確にした教室をいくつか運営して、(それで欲求が満たされないのであれば、)もう少し難易度の低い別事業に横展開していく、というのが塾事業に携わった人にとっての「正解」となるのでしょう。