不惑を迎えて、服装の趣味が少し落ち着いてきたようです。たとえば、20代半ば〜30代にはVネック一択だったTシャツ購入時の選択が、段々とクルーネックに移行してきたことが、自覚している変化の1つです。
多少トレンドの影響も受けていますが、人はきっとこうやって落ち着いていくのでしょう。そして気づけば、「それ、どこで買ったのか…」という絶妙な色合いとデザインの服に身を包んだ壮年になっていると。尤も、各年代で好まれる色味に関しては、老化によって目の機能が変化(低下)する影響を受けるはずなので、これから医療技術が進歩していけば、『LEON』に掲載されていそうな衣装に身を包んだ高齢者も増えるかもしれませんが。
ところで、数年前に亡くなった我が家の母はアパレル関係の仕事に就いていました。と言っても、いわゆる百貨店の催事を主戦場にした働き方で、高級ブランドとは無縁でしたが、随分と腕利きな売り子だったようです。
さて、そんな母がよく言っていたのは、「衣食住のうち、お金をかけるなら前の2つにしなさい」ということでした。曰く、家にまで来る間柄の人なんて多くないのだから、そこは自分が快適なら十分で、人間関係を豊かにしたければ、投資すべきは食事と服装ということでした。なんだか分かるような分からないようなロジックですが、実際、高校生くらいだった息子に自由が丘のセレクトショップで数万円もする服を惜しげもなく買い与えていたのは記憶に残っています。
ただ、そうして育った息子の方は、さしてブランド服に興味を抱かず、衣食住の中で言えば最後の1つを生業にしているのだから面白いものです。多少こだわっているとしたらワイシャツくらいで、Made in Japanを推す意味でも、気づけば「鎌倉シャツ」ばかり愛用しています。
まあ一応、発祥の地であるイギリスでは元々、下着と位置づけられていた歴史があって、どうやら胸ポケットのない方が正当的らしいという蘊蓄くらいはネット情報で仕入れて、対象は意識しているわけですが。
…と書いていて思い出したことがあるので、最後に少しだけ。よく、富裕層を研究するような本で、「本当のお金持ちが着る服はUNIQLOばかり」といった記載を目にしますが、これは半分本当で半分ウソだと思っています。たしかに、中には感性の領域に面白いほど興味がなかったり、周囲に溶け込むことを何より重視したりする人もいると思いますが、「良質なものには正当な対価を支払う」という価値観・感覚を持った層も間違いなく存在するので。つまり、世間からみた「お金持ち」の服装に対する姿勢は、
- 無頓着
- ミーハー層
- こだわり派
…の3つに分類した方が実態に合っているようです。自身は至って普通の人間ですが、なぜか周りには豊かな人が多い中、「3」の派閥の方々とは「モノを大切にする」という感覚を共にすることで人間関係を深められた経験が多かったのを思い出して、小噺の終わりに追記してみた次第でした。
以上、おしまい。